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【Part1】「熱狂している感じが好きだったんです」エブリー代表・グリー元取締役・吉田大成氏の新たな挑戦

SNSのタイムライン上で再生される料理動画は、今や誰しも一度は目にしたことがあるのではないだろうか。前述の『DELISH KITCHEN』や、美容系動画の『KALOS』など、様々な分散型動画メディアを運営し、現在急成長中のスタートアップこそ、株式会社エブリーだ。

代表の吉田氏は2015年までグリーに在籍。2006年、将来の起業という夢を持ってグリーに飛び込んだ吉田氏は厳しい環境の中で揉まれながら、大ヒットタイトル『釣り★スタ』を生み出していく・・・。

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事業計画も魚の画像くらいしかありませんでした

—大ヒットタイトルの『釣り★スタ』を生んだ際には、どういったエピソードがあったのでしょうか?

当時ゼロからイチを作るのは初めてでした。

でもその前にKDDIさんと一緒に、占いやデコメやミニゲームのサイトに関わっていて、その中で一番人気があったのが30秒で遊べるミニゲームでした。ですので次に新しく何かを始める際は、ミニゲームを軸にしようとは思っていました。

あとは当時、広告の売り上げを伸ばしていこうという中で、モバイルの広告単価がなかなか上がらなくて、他のビジネスも考えていかなければというタイミングだったのですが、ちょうどPCではアイテム課金が流行り始めていました。これはモバイルにも同じことが起こり得るのではないかということで、ミニゲームでモバイルでアイテム課金で、単独で作っても意味がないのでSNSにどう絡めるか・・・その中でユーザーがいかに楽しめるものを作れるかという、骨子は元々固まっていました。

—そうですよね。いきなり閃いたというわけではなく、今までの積み重ねですよね。

はい。全く違うものをやるということではなく、自分が調べたり運用したりしている中で、一番勝ち筋が高そうな選択肢を選んで始めたという感じですね。

ただ最初はプロジェクトメンバーも3人でスタートして、どちらかというと反主流というか。当時はPCのSNSも運営していましたし、広告販売で売り上げを作っていましたし、僕も他のサービスを運営しながら開発していました。みんなミニゲームのちょっとした発展版程度の認識で、事業計画も魚の画像くらいしかありませんでした。

魚の画像の費用と、エンジニア3人で5ヶ月分くらいの人件費が回収できれば良いよね、まずはやってみようという感じでした。

—何が当たるか分からないですね・・・。

そうですね。本人たちも、3,4ヶ月やれば回収できるだろう、くらいのテンションでした。

ですので初日にグリー内の通貨が大量に使われた時、みんな何が起こっているのか分からなくて社内がパニックになりました。数字が間違っているんじゃないかとか。

—ありえないと。笑

はい。一時的なものかとも思ったのですが、その後も止まらなかったので「これはもしかして・・・」という雰囲気になり、そこでPCの運用を止めて、裏側で作っていたサービスも一旦止めて、一気に人をシフトして「ソーシャルゲームに全張りだ!」となりました。

—すごいスピード感ですね。そういった時はどのような心境なのでしょうか?

本人たちも何が起こっているのか分からないので、やったぜというよりは驚きですね。あとはユーザーが集まりすぎてサーバーがダウンしたりしていたので、この状況を維持するのに必死でした。

—しばらくすると社内の体制も落ち着いてくるわけですよね?

いえいえ、全然追いつかなくて。僕は釣り★スタを運営しながらその後リリース予定だったアバターの開発もやりつつ、占いもやっていました。家に帰れないですよね。笑

寝ずに作っていたので、一度間違えて釣り★スタのユーザーテーブルを消してしまったことがあります。

—おぉ・・・ありがちな話ではありますが、やっちゃったわけですね。復旧は?

そこは、神(CTOの藤本氏)が・・・。

寝ていなかったので具体的に何をやったかは記憶に無いのですが「あ、これは間違えてユーザーのテーブル消しちゃったな」と。「えーっと・・・でも消えてないかもしれないから、一旦レコード数を数えてみよう・・・」と思って数えてみたらどんどん減っていって、最終的に0になりました。

その瞬間からすごい数の問い合わせが来て、サポートチームに「大成、何やってんの!すごい来てるんだけど!」と怒鳴られました。僕は静かにパソコンを閉じて、藤本さんの横に座って、パソコンを開いて「藤本さん、コマンドを見てください」と一言。

そしたら藤本さんが「もうお前触るな」と言い放って、とりあえずサービスを止めようということになりました。でも止めるためのコマンドも、手が震えて打てないんです。

結局藤本さんが3,4時間で復旧してくれて「神すごい」って改めて思いました。最悪の思い出ですね・・・。苦笑

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伸びている数字は全てを癒してくれます

—なるほど、そういった失敗も経験されているんですね。まさに日々死に物狂いな状況だったと。その間に人も増えたのでしょうか?

いえ、増えていないです。そこはグリーのすごいところですね。どれだけ大変でも人選して慎重に採用していました。

—一旦今いる人でやれということですね。笑 その後、会社としては一気に拡大フェーズに入っていきましたよね。

はい。今までは社員数の多い会社に同じようなことをされると抜かれるリスクがあったので、広報活動もあまりしていませんでした。でも上場後くらいからミクシィさんやDeNAさんがプラットフォームの上で『怪盗ロワイヤル』のようなゲームを出し始めたので、一気に組織を作ってビジネスをやらなければという雰囲気になり、ひとつギアが上がりました。

—その頃はもうご自身でプログラミングすることはなくなっていましたか?

いえ、やっていましたよ。もちろんメインはビジネスサイドでしたが、自分がやった方が早い時はやっていました。プラットフォームのアルゴリズムを変えるとか、デザインを変えるとか。

—すごいですね。その時はもうメンバーもたくさんいるわけですよね?

そうですね。全社で300人くらい、チームだと50人くらいです。

—人数が多くなってきた中で、どのように組織をまとめられていたのでしょうか?短期間で急拡大して、しかも優秀なエンジニア集団ですよね。あらゆるベンチャーが苦労しているところだと思います。

一番濃厚な時間を過ごした上場前のメンバーが、上場後もみんな残ってくれていたのが大きかったですね。グリーのスピード感は他の会社と違いますし、エンジニアも数字に厳しいのですが、それが文化として出来ていました。24時間一緒に働いていたメンバーが残っていたので、僕の考え方を理解して早く実行もしてくれました。

あとは組織が大きくなっていく中で、伸びている数字は全てを癒してくれますよね。数字から、全員がやりがいを感じてくれるというのはもちろんあります。

—新しいメンバーにも上手く文化が伝播したわけですね。あまりご苦労はされなかったのでしょうか?

そうですね。過度に人数を増やしすぎるというよりは、全員が何らかの責任を持って働けるよう留めていました。全員が自分で考えることが大事で、その中で会社がやるべきことや、進むべき方向性さえ明確に打ち出せれば、基本的にマネジメントはさほど大変じゃないと感じました。

でもそれはたぶん、数字が全てを癒してくれたからですね。細かい1on1でビジョンを共有していくということも大事ですけど、一番は右肩上がりの状況を作れるかどうか。作れないにしても、将来的に作れることを全員が理解しているかどうか。売り上げが一時的に横ばいになったり下がったりしても、その理由や、今後上がっていくことを全員が理解していれば大丈夫だと思います。

—なるほど。めちゃくちゃかっこいいですね。

それで数百名くらいまではいけるんですよ。ただ全ての意思決定が自分に集約していることは分かっていたので、自分が知っている範囲でしかビジネスが作れない・・・非連続な成長が発生しなくなったというのが当時感じていたところです。

1年間の売り上げも自分が予想した通りにはなりましたけど、それ以上のものがありませんでした。それで内製に加えて協業開発でのゲームビジネスを始めるとなった際に大事にしたのが、今までとは少し違うメンバーを採用するということです。違う業界の人とか、大手ゲーム会社で創業期から携わっている経営陣とか、今まであまり付き合わなかったビジネスサイドの人を採用して、自分がその人たちと合わせられるか、ということをすごく大切にしていました。自分の直下の部下の約半数をそういったメンバーに変えました。

—それは誰かに言われたのではなく、ご自身で感じて?

そうですね、限界を感じて。

自分が考えつかなかった展開を競合にされたりして、自分の戦略の甘さに気づいたりもしました。自分がやれないことを、組織でいかにしてやるか考えた方が良いなと思いました。

例えば今までのゲーム業界がどういった歴史を辿ったかとか、どういった背景のもと、どういった意思決定が行われたとかは、創業期からいらっしゃった方に聞いた方が早いと思ったので、そういった方は組織を持たずに僕の直下で「これは何年前に見たことがあるね」とか言って頂きながらやっていました。

—さらっとおっしゃっていますけど、そういった決断を経営層が行うのは勇気がいることだと思います。成功体験もある中で、他の価値観を受け入れるのには柔軟性も必要でしょうし・・・素養かもしれませんね。小さい頃に輪を大事にして、年上の方とも多く接してきた体験が生きているのかもしれません。

そうですね。もちろんよく知っているメンバーを集めた方がマネジメントは楽ですし、最初は自分とは異なる考え方を受け入れるのに苦労しました。マネジメントとは自分が理解できていないことに対していかに理解をして、最終的に意思決定するかなんだなぁと思いました。良い経験でしたね。

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事業計画はないんです

—そこからグリーを出て、起業に至った経緯はどういったものだったんでしょうか?

僕はグリーの創業取締役の田中さん、山岸さん、藤本さん、青柳さん全員の直下で働いたことがあるおそらく唯一の人間です。企画のアイデアや、時代の流れを読む力は田中さん、数字の厳しさは青柳さん、開発力は藤本さん、組織については山岸さんで、その人たちのエッセンスが少しずつ入って今の自分になっていると思っています。そうした中で、自分でやっても同じようにできるのかということに、自分自身が興味を持ちました。

あとはグリーが国内3000万人のユーザーに使っていただけるサービスを生み出して、ゲーム市場が大きく変わって、市場全体も伸びたわけですよね。これはすごいことだと思っていて、これだけ伸びるビジネスチャンスはなかなかありません。自分自身のチャレンジのテーマとして、ゲームと同じように市場が大きく変わるタイミングが来るものをずっと探していて、それが動画ビジネスでした。

—社長になりたいわけではなくて、大きな流れを自分で生み出すチャレンジをしたいということですね。

そうです。自分で作ったものが、もう一度同じように2000万人、3000万人に使ってもらえてインパクトを与えられるかどうか、プラスそこでビジネスができるかどうかに挑戦したいと思いました。

—もはや麻薬ですね。笑 ちょっとした刺激では、もう吉田さんは心踊らないんじゃないですか。

麻薬ですね。でも事業規模の大小ではなく、いま日々やっていることは楽しいですし刺激的ですよ。僕が唯一社会人になって担当したことがなかったのが広告営業でして、いまメンバーと一緒に営業して、初めて申し込みが入った時は嬉しくて泣きそうでしたね。いや、泣きました。笑

—麻薬は規模ではないということですね。常に新しいことに挑戦できる環境にありたいということですね。

そうですね。あと例えば弊社の『DELISH KITCHEN』というサービスが伸びていく様を見ていると、僕は2回目ですけど今携わっているメンバーは初めての経験をしているので、当時のグリーの経営陣はこんなことを考えていたのかなぁ・・・と思ったりもします。僕がグリーに入ったのは26歳で、今うちにいる多くのメンバーと同じ年なんです。

彼・彼女たちに言いたいことも多々ありますが、今はサービスに専念して一生懸命やっているので一歩引いて見ています。でも振り返ってみるとグリーでは僕も何も言われず、リリース直前になった瞬間にいきなり「大成、お前イケてない」って怒られたなぁとか、でもそうなるなぁ・・・とか思いながら。笑

—感慨深いですね。

ひとつの会社の成功パターンを見せてもらえたのは、すごく大きいですね。

—今後が楽しみですね。事業計画についてもお聞かせ頂けますか?

事業計画はないんです。釣り★スタを作った時の計画も結局当たらなかったですし、やっていく中で細かい数値感は分かるようになりますけど、当たりが出てくるまでは数値通りに進んだかどうかよりも、日々違うことにトライしていく方が大事だと思っています。

あと数字を作ってしまうと達成することで満足してしまいますが、無ければ日々伸びることをひたすら追求するので、今のフェーズであれば無くても大丈夫です。時代は変わるもので、僕たちがやっているビジネス的にもプラットフォーマーが変わるかもしれない中で、計画に対してミートさせることではなく、その時その時で最先端のことをやっていった方が良いと思っています。

—なるほど。フェーズの問題ですよね。今はエクセルに線を引くよりも他にやることがあると。

そうです。一方で出てきた数字に対しては細かく見ています。徹底的に振り返るので、数字を全く作らない・見ないということではなくて、ここから半年後の数字を作る暇があるなら、過去の数字を見て次の大きな一手を考えるべきだと思っているということです。

—組織のサイズ感も同じですよね。100人にする、1000人にすることを事前に計画して進めるわけではなくて、その時の事業の状況を見ながら拡大していく。

そうですね。組織に関しては基本的にグリーの作り方と似ていると思います。あとは僕がグリーの後半で感じた、自分たちの知らない知識や知見をどう取り入れるかが大事で、そういった状態を早く作りたいですね。

綺麗にまとまっている会社、問題もトラブルもない会社は、実は成長していない会社、何もチャレンジしていない会社だと思っています。組織は良い意味で混乱していて、誰とどうコミュニケーションするのかも含めて自分たちで動いていく状態の方が、意図しない化学反応が社員間で起こりえるのではと。

僕は社長として今のメンバーと良い化学反応が起こる人を採用しますし、メンバーたちは自分の領域をいち早くスケールさせるための仲間を集めて欲しい、という採用方針です。組織に関しては、遊びがある状態を作っておくのが大事だと思っています。

—経営哲学が出来上がっていますね。吉田さんはグリー時代に寝ずに働いていたとおっしゃっていましたが、働き方の面では今はいかがでしょうか?

弊社には夜遅くまで働くメンバーもいれば、子育てをしながら時短で働いているメンバーもいます。ここは自分の中でもチャレンジなのですが、ママ向けのメディアをやっているのでママが働けないと意味がないと思っていて、バリバリ働いても良いし、自分が働ける中で結果を出せるような状態でも良い。様々な人たちが一緒に働けるようになると、先ほどの化学反応が起きるのではないかと考えています。

—そうですよね。全員で徹夜もいとわず働けますという組織は、多様な価値観という点で限界がある気がします。どちらかではなく、どっちでも良いよという組織を作れると面白いですよね。

そうなんです。バリバリ働いてこれから伸びていく若い人たちもいるし、経験を活かして仕事をする30代の人もいる組織が面白いのではないかと思っています。

そういった組織で成功を目指すという方針さえ伝えれば、あとはみんなで都度「こっちの方が働きやすいよね」と話し合ってルールを作っていけば良いかなと。

—良いですね。組織が大きくなっていくと違う問題が出てきたりして、そこでまたグリー時代を思い出しながら解決していくのでしょうね。これからがすごく楽しみです。

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国内でも類を見ない急成長を果たしたグリーの中心で活躍し、自ら創業経営者たちの遺伝子を受け継いでいると語る吉田氏。唯一無二の大きな経験を武器に、今度は自らの旗を立てて大海に漕ぎだし、今一度大物釣りを狙う。

-End-

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